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今週の土曜日、10月7日から高知県立文学館で「めざめる探偵たち」という企画展が始まります。来年(2024年)1月8日までやっています。
そのなかで、次の日曜日、10月8日に記念講演会「日本の探偵小説は、高知から生まれた――涙香、孤蝶、そして雨村の果たした役割――」を、私がやらせていただくことになりました。日時、場所などは以下の通り。
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日時:10月8日(日) 午後2時~4時
場所:高知県立文学館1Fホール
※当日観覧券が必要(高校生以下無料)
事前に電話または当館受付にてお申し込みが必要
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また、これに先立ち、高知県立文学館の館報「藤並の森」No.102に、リレー随筆「涙香、孤蝶、雨村が〈探偵〉を生んだのだ」を書かせていただきました。よろしかったら、ご覧下さい。
さて、当日の講演では、黒岩涙香、馬場孤蝶、森下雨村が日本の探偵小説の発展に果たした役割をお話していきたいと思っています。
企画展の展示もたいへん素晴らしいものです。涙香、孤蝶、雨村の業績がわかりやすく展示されています。ミステリーかんたん年表などもあります。また、文豪ストレイドッグスの能力者たちがあちこちに。あれ?
文豪ストレイドッグスとのコラボなので、幅広い年代の方々にも楽しめると思います。ぜひ見に来ていただきたいと思います。私も監修で協力させていただきました。
講演会を皮切りに、その他のイベントも盛り沢山。映画上映会では、江戸川乱歩「黒蜥蜴」(10月22日)、横溝正史「八つ墓村」(10月29日)など。クイズイベントやプレゼントなどもあります。ファイナルイベントとして、来年1月7日には、文豪ストレイドッグスの制作者のみなさんのトーク・ステージがあります。詳しくは、高知県立文学館のHPをご覧下さい。
なお、文学館では、ヒラヤマ探偵文庫の馬場孤蝶『悪の華』、森下雨村訳『謎の無線電信』、馬場孤蝶訳『林檎の種』、森下雨村『二重の影』も販売してくださいます。本当にありがたいことです。
この企画展をきっかけに、高知県が生んだ涙香、孤蝶、雨村の業績がもっともっと広まることを願っています。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
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ヒラヤマ探偵文庫の愛読者の皆様のために、未公開長編小説をブログで無料公開しようと思います。
一つ一つの章が比較的短いので、一回に一章連載でいけるのではないでしょうか。
著者のマックス・ペンバートン(1863~1950)は、イギリスの冒険小説や探偵小説の作家であり、キャッセルズ・マガジンの編集者でした。彼はアーサー・コナン・ドイルやバートラム・フレッチャー・ロビンソン(1870~1907)の友人でした。ご存じのように、ロビンソンの協力で、コナン・ドイルは「バスカヴィル家の犬」を書きました。
この本は、ロビンソンが死の床でペンバートンに託したメモをもとにして書いたものです。それについては、ペンバートンの前書きをご覧下さい。
アナーキストの車輪
暗殺者の物語新聞記事再録とブルース・インガソル氏の口述筆記によるマックス・ペンバートン著者よりこの小説は故B・フレッチャー・ロビンソンの助言による。彼は親しい友人であり、その死を大いに悼んでいる。このテーマは彼本人が数年前から興味を抱いていた。そしてなくなる直前に受け取った手紙の中に、私がこのアイデアを必ず本にすると約束してくれと書いてあったのである。それをようやく実現したのが本書である。彼が残したノートに少々私の考えも付け加えたが、書き上げられたのはかけがえのない友情への感謝のおかげである。マックス・ペンバートン -
長田幹彦『蒼き死の腕環』(ヒラヤマ探偵文庫10)の初出は、『婦人世界』大正13年1月号から12月号まででした。この連載に関して、『婦人世界』編集部は、沈みがちな気持ちを光明方面に一転できるような期待をこめていたようです。
そのためか、関東大震災の悲惨な描写は影を潜めていて、地震の被害の様子を描いた場面は少なくなっています。神奈川県の横浜が舞台の小説ですが、主なものをあげてみましょう。
P9「李爺」の冒頭
・フェアモント・ホテルは小港町からもう本牧は出ようという坂道の左側にあって、僅か室数にして二十ばかりしかない小さなホテルであったが、あの大震災の後は、市中の名だたるホテルが皆焼失してしまったので、この頃でもかなり泊り客で混雑していた。もとは酒場ばかりが栄えていた怪しいホテルの一つであったので、今でも出入りしている客たちの中にはずいぶんいかがわしいのもいた。
P12「李爺」
・女はそこから二つ目の横丁まで来ると、ふっと立ち止まって今来た方を振り顧ったあとで、おずおず角から四、五軒めの煉瓦壁と煉瓦壁の間へ入っていった。それこそ鼻をつままれても分からないような暗闇なので、女は足探りになるべく音をたてないようにそっと入っていったが、とある大きな建物の前までくると、そこで歩みを止めて、思わず深い息を入れた。
そこは震災以前までは五階建ての堂々たる商館らしかったが、今ではもう焼け煉瓦が小山のように堆く盛り上がっているばかりで、昔の姿を偲ぶべくもなかった。
P49「毒牙」
・そうしているうちに、ふっとギブソン氏の声が、
「お、こりゃ光の工合が馬鹿に悪くなって来たな。おい、電気技師。カーボンを入れかえてくれ」と、英語で叫ぶ。
と、どこか遠くの方で、
「カーボンを取り換えても駄目ですよ。今、電力が急に弱くなったんですから」と、いう声が聞こえたが、それと同時に、今度はまたギブソン氏の声が、
「お、とうとう消えちまったなあ。これだから地震の後の東京は駄目だというんだ」と、口笛を鳴らして、「おい、監督。それでは三十分間休憩としよう。皆彼方へ行ってコーヒーでも飲んでいてくれ」と、いう。
そこいらでは、どたばた人の足音が乱れた。
というふうに、あまり大きな被害に触れられていません。触れていても、さらっとです。やはり、読者のことを考えてのことだったと思います。
同じ関東大震災のことを、背景にして描いた三上於菟吉『血闘』(ヒラヤマ探偵文庫24)では、冒頭から関東大震災の惨劇が描かれているのですから、大きな違いです。こちらは、『雄弁』大正13年11月号から大正14年9月号までの連載でした。震災から約一年経っているから、ということもあるかもしれません。震災を物語化できるような余裕が生まれていたのかもしれませんね。
同じ地震を舞台にした探偵小説でも、作者が異なると、このくらいの違いがあるということがわかります。
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今までは、各書店さんにお願いする以外に、BOOTHで通販をしてきました。
ただBOOTHはあまり一般的でないというのと、会員登録が必要なのですね。
そこでためしに、なんでも通販をしているBASEに同じような店を作ってみました。
中身は一緒なのですが決済方法がいろいろあるのがいいようです。
いかがでしょうか。
使いやすいほうでお使いいただければと思います。
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大阪の皆さま、お世話になりました。無事文学フリマ大阪から帰ってきました。
今回の新刊は
の二冊、「ある刑事の冒険談」ウォーターズ
「二重の影」森下雨村
でした。
今年は前回の1・5倍の広さになり、およそ700ブース。
来場者も倍くらいの数になったらしいです。
昨年も感じたのですが、大阪は元気ですね。
これからどんどん発展していく気配がしました。
ただ、「ある刑事の冒険談」はあまりにもマニアックすぎたかな。「二重の影」のほうが売れ行きはよかったです。一応日本でも名前が知られている作家ですしね。(いや、最近の若い方はどうか知りませんが)
お隣になった方々、ありがとうございました。
「新青年」研究会が最近はバーチャルでしかひらかれないので、国内小説担当の湯浅さんと会って食事をしながら、これから出す本についていろいろ相談をしました。やはり実際に会うのは大切ですね。しかもズーム会議では、他の人もいるので余計な雑談もできませんし。
さまざまなアイデアが出てきて、おもしろい企画会議でした。
もっともあとは、それを形にする努力と時間がどれだけあるかということなんですがww
しかしそれを他人に任せると、またそれで面倒なことも起きてしまいますし、妥協もしなければいけません。一人親方でやっているからこそ、できることもあります。湯浅さんは国内、私は海外ということですみわけをして、まったく別々の活動をしているからこそ、忌憚のない意見も出せるということもあります。(「囁く電話」は例外です)
なにもかも一人でやるということの利点もあり、欠点もあるのですが、商業出版でたくさんの人が関わることも経験した上で、私が出したい本はそんなにたくさんの人の手をわずらわせては申し訳ないという思いも強くなりました。そういうわけで始めたのが、ヒラヤマ探偵文庫なのです。
他にもたくさん面白い本が手に入りました。特に横溝正史関係は、すごいですね。今一番のっています。
さらに翻訳も頑張っているみなさんがたくさんおられます。
どうぞみなさん、来たる11月の文学フリマ東京においでください。