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長田幹彦の『九番館』 その2
長田幹彦の「九番館」が雑誌連載された頃は、人々の生活は汲々としていました。「九番館」の登場人物の原島貞一郎は、居留地にある、元は教会だった九番館と呼ばれる建物にやってきて、そこに貧民病院と親に見放された子どもたちのための貧児院を作ります。そう、世の中には貧しい孤児がたくさんいたのです。
こういう社会状況を舞台にした大衆小説は、同時期に他にもありました。三上於菟吉の描いた「悪魔の恋」という小説です。これは『九番館』と同じ発行元の博文館が出している『講談雑誌』に大正10(1921)年1月から一年以上連載されました。
「悪魔の恋」の主人公、江馬勇は立派な家の息子でしたが、あることをきっかけにして、実は自らの出自が孤児だということに気づきました。紆余曲折した後、孤児院を建設していくという話です。
たぶん偶然だろうと思いますが、なぜ、この時期にこういう孤児を扱った作品が博文館の発行する雑誌に載ったのかは定かではありません。しかし、「孤児」というテーマを小説にするほど、世の中が困っていたのでしょうね。
下の写真は、『九番館』単行本(大正10年8月発行、博文館)の表紙です。

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