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馬場孤蝶訳「林檎の種」の挿絵

ヒラヤマ探偵文庫の最新刊、『林檎の種』の初出は『週刊朝日』だと言いましたが、そのときの挿絵は古家新が描いていました。このとき古家は、大阪朝日新聞社学芸部に入社したばかりでした。しかし、『週刊朝日』表紙の題字「週刊朝日」の文字デザインを任されていましたので、編集部の期待の大きさが窺えます。新進気鋭の画家だったのですね。

その彼が、馬場孤蝶訳の「林檎の種」の挿絵を担当していました。ここからも『週刊朝日』編集部の力の入れようがわかるというもんです。

一つ、挿絵を紹介してみましょう。「林檎の種」第7回(『週刊朝日』大正11年4月23日号、『林檎の種』P41~42)の挿絵です。

絵の中心に立っている女性は、マアチャンツ銀行の頭取エグルストンの女書記です。エグルストンには、殺害予告が出ていました。その時刻は午後1時45分。挿絵は、予告時刻の2分くらい前の様子を描いています。本文には、以下のようにあります。

「おおよそ一分ほどの間、女は凝乎と手帖を見ていたが、やがて当惑の様子が額に現れたと見るうちに、突と急な焦然した挙作で起ち上がり、手帖を持って、また頭取室へと入って行った。

 一時四十三分になると、女書記はまた頭取室から出て来て、また前のとおり戸を閉めて、自分の方を人々が見ているのなどは、いっこう何とも思わないような態をして、自分の物書卓のところへ行った。顔は蒼くなっており、一体の様子が何か物怖をして、あたふたしているように見えていた。」

どうです?

緊迫した雰囲気の出ている絵柄になっていますね。

右上の時計と彼女の表情とのバランスがいいです。

後ろに坐っていたり立っていたりする男達とのコントラストも素晴らしい。

このような挿絵とともに、初出の「林檎の種」は『週刊朝日』に連載されていたのです。しかし、その『週刊朝日』も、今年2023年6月9日休刊特別増大号で「休刊」することになってしまいました。残念です。

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