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「虹の秘密」の不思議な世界

加藤朝鳥は、翻訳家、評論家として知られていますが、探偵小説を書いた作家でもありました。『虹の秘密』ヒラヤマ探偵文庫17は、朝鳥の書いた探偵小説を二編収録してあります。大正9(1920)年の「疑問の指先」と大正12(1923)年の「虹の秘密」です。いずれも女性を主人公にしているところに特徴があります。

今回、紹介したいのは、表題作の「虹の秘密」の挿絵です。この作品の中で主人公の橋本京子は、心霊現象を使って犯人を見つける手がかりにしたり、彼女が属している碧川心霊研究室の碧川博士を助けたりもしていました。その心霊現象とは、いわゆる千里眼のようなものです。碧川博士が言うには、人間の脳には色彩顫動という働きがあり、それを究極的に機能させていくと、他人のすること一切を見抜くことさえできるんじゃ、ということです。

橋本京子は碧川博士に導かれ、特別な部屋に案内され、台に乗せられ、そこにあった椅子に座ります。博士の指示に従い、思念を集中させます。そうすると、自分の身体が溶解していくような気持ちになり、なんだかわからない満足な感情に満たされます。耳の底の方ではたえず美しい音楽が鳴っている。やがて眼前いったいが緑色に覆われて、それが二つの濃緑色の点になって、真っ黒な闇になっていきます。そこで見えてきたものとは……?

このときの様子を描いたのが、下の写真の挿絵(『雄弁』大正12年5月号より)になります。これは、『虹の秘密』(ヒラヤマ探偵文庫17のP53~56)の一場面なんですが、どうでしょうか、すごい躍動的な構図になっていますね。

もう一枚、ご覧に入れます。ある日、碧川博士のポケットに、黒い菱形の物体が入れられていました。その一方の側は、漆のように黒いのですが、もう一方の側にはキリスト教の聖杯のような盃が彫ってあって、その盃の台のところを気味悪い一匹の蛇がぐるぐると蜷局を巻いているものでした。盃の色は、目が覚めるほど鮮やかな橙色をしています。

博士はこの不思議な物体をたいへん気にしていました。橋本京子は、新設された実験室に、博士とこの物体と一緒に入って精神を集中します。そうすると、盃の蛇が動き出して、盃は下に落ちて粉々に砕けてしまいます。と同時に、博士は突然立ち上がって、京子を叩いて、鋭い声を上げて外に出て行ってしまいました。その後、博士は行方不明になります。そのときの様子を描いたのが、以下の挿絵(『雄弁』大正12年8月号より。『虹の秘密』P94~100)です。


 

幻想的な雰囲気を持つ挿絵です。挿絵の画家は、クレジットされていませんでしたが、挿絵中のいくつかにある画家のサインから千川竿児なのではないかと推測しています。大正時代の千川の仕事はよくわかっていないので、もしそうだとしたら、貴重な挿絵になりますね。

いかがでしょうか。加藤朝鳥は翻訳家なので、海外作品に種本がありそうですが、それは置いておきまして、とにかくこの作品が『雄弁』大正12年5月号~8月号に掲載されていたのは面白いことだと思いました。

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