ヒラヤマ探偵文庫JAPANでは、9月10日に開催される文学フリマ大阪11で最新刊、森下雨村『二重の影』を発行します。この巻には、雨村の作品を二編収録してあります。一つは「幻の男」で、『日本少年』大正13年1月号に掲載された作品です。雨村の違うペンネーム「佐川春風」名義で掲載されました。
この画像は、初出「幻の男」の扉絵です。絵の右上には、幻の男を現した光る眼がありますね。見えますか?
作品に扉絵をつけているので、掲載には力が入っています。本文中には、その画家のクレジットはないのですが、挿絵中のサインから「中野修二」と推測されます。この頃、中野は『日本少年』に漫画や挿絵をたくさん描いていました。
「幻の男」に見られるトリックは、二上洋一『少年小説の系譜』によれば、「怪人二十面相」における博物館の館長に化ける二十面相のトリックと同じであるということです。「幻の男」のほうが先に発表されていますから、「怪人二十面相」に何らかの影響を与えたといえそうですね。
また、この号は、大正13年1月号ですから、まだ関東大震災の影響が随所に残っていた頃に発行された雑誌です。「幻の男」の中でも、「立花記者が本郷の博士邸に着いたのは九時二十分であった。閑静な本郷台町の高台はひっそりとして、あの地震以来、東京の街々にできた夜警団の拍子木が、カチカチと夜の静寂を破っている」とありました。これは、物語上では大正12年12月9日の夜の場面でした(「三 博士と義賊の試合」・『二重の影』ヒラヤマ探偵文庫30、P11より)。
うむ。――ここで、あまりしゃべっても何ですから、あとは読んでからのお楽しみということで、、、。
さて、もう一つの収録作品は「二重の影」です。『少女倶楽部』大正12年1月号から4月号まで掲載されたものになります。こちらの方は、「森下雨村」名義でした。表題の「二重の影」は「にじゅうのかげ」と読みます。「ふたえのかげ」と読みそうですが、そうではなくて、連載開始の表題を見てもらうと「重」に「ぢゆう」とルビが振ってありました。以下の画像をご覧下さい。
実は「幻の男」とは、作品の方向性に違いがありました。
トリックを強調するというよりも、主人公の澤本美智子にそった目線で描かれた事件は、『少女倶楽部』の読者達に寄り添い、共感しやすいものなっていました。「幻の男」とは、読者と向き合う方向性に違いがあるのです。そこには少女の生活に密着しつつ、少しでも冒険を夢見る〈少女〉という存在が描かれていました。
挿絵は、一木弴。一木はこの時期、江戸川乱歩のデビュー作「二銭銅貨」(『新青年』大正一二年四月春季増大号)でも挿絵を描いています。雨村が、挿絵の雰囲気を気に入ったのかもしれません。
これら二つの作品を収録した森下雨村『二重の影』を、文学フリマ大阪11で発行します。雨村の描いた少年少女探偵小説を、これからもヒラヤマ探偵文庫で発売していく予定です。どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
あっ、最後にもう一つ。
この10月7日から、高知県立文学館で開催される「めざめる探偵たち」という企画展があります。そこのオープニングイベントとして、10月8日(日)に記念講演会「日本の探偵小説は高知から生まれた――涙香、孤蝶、そして雨村の果たした役割――」を私(湯浅篤志)がすることになりました。
ヒラヤマ探偵文庫から発行されている馬場孤蝶『悪の華』(ヒラヤマ探偵文庫13)、馬場孤蝶訳『林檎の種』(ヒラヤマ探偵文庫28)、森下雨村訳『謎の無線電信』(ヒラヤマ探偵文庫21)、森下雨村『二重の影』(ヒラヤマ探偵文庫30)なども取り上げ、表題内容をお話しするつもりです。もし、よろしかったら、お運びいただけるとたいへんうれしいです。開催日が近くなりましたら、またブログでお知らせをいたします。こちらも、どうぞ、よろしくお願い申し上げます。
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