"翻訳小説"カテゴリーの記事一覧
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今回は、未発表の原稿の一節をご紹介しましょう。
大正初めの英語の日本旅行案内です。
関東大震災以前ですので、明治時代や江戸時代の名残を残した東京で、夏目漱石や森鴎外が描いた東京でもあります。そして「鬼滅の刃」の時代でもあります。
その中で、外国人向けに日本の食事を紹介している部分をちょっとだけ、公開します。
当たり前に思っていることが、あー、なるほどと思うかも知れません。
米は様々な名前で呼ばれる。男性は「メシ」といい、より丁寧な言い方は「御膳」である。またより教養のある言い方(婦人が使う)は、「ご飯」だ。
外国人はすぐにこの非常に素晴らしい国産米を好きになるだろう。一粒一粒が優れていて、しかもちょうどいい粘り気があるので一塊として箸で持ち上げてもこぼすことがない。
あずき飯…米と茹でた赤えんどう豆を混ぜたもの。
餅…小さな生地状のケーキで米から作り、日本中で売っている。
寿司…米飯と魚、卵、野菜などからなり、酢と醤油で味づけられた食品の総称。
ちらし寿司…米飯に塩と酢で味をつけ、調理した魚、卵、野菜などを細かく切ったものを混ぜる。
箱寿司…上述の寿司を木箱に入れてプレスしたもの。
稲荷寿司…揚げた豆腐にちらし寿司を詰めたもの。
巻き寿司…米飯と野菜を巻いて、浅草海苔という海藻のシートで包んだもの。
蒸し寿司…ちらし寿司の一種で、陶器のボールに入れて蒸したもの。
握り寿司…塩と酢で味をつけた米飯の玉に、酢漬けの魚などを乗せたもの。
鮒寿司…鯉(鮒)が酢と塩で味付けした米飯の中に入っている(近江地方の名物)。
昆布寿司…酢で味付けした魚を、真昆布という食べられる海藻で包んだもの。この人気の食べ物は昆布巻とは違う。こちらは焼いた魚を昆布で巻き、縛って佐藤と醤油で煮たもの。その他:
茶碗蒸し…人気のあるシチュー(もしくはどろりとしたカスタードのスープ)で、卵、魚(または鶏肉)そして野菜が入っている。
茶碗…文字通りでは茶を入れるカップという意味だが、マッシュルームと薄い魚の切り身が入ったスープのこと。
佃煮…小さな魚を醤油で煮て、付け合わせや薬味として用いる。これをつくっているので有名な東京の佃島から名前がついた。
おでん…焼き豆腐、蓮根、ジャガイモなどのシチュー。労働者に人気。
口取り…甘い付け合わせやデザート(茹でた甘い栗、甘いオムレツのようなものなど)。
和え物…醤油または胡麻のペーストのサラダ。
香の物…大根、茄子、キャベツなどのピクルス。
汁粉…茹でた餅に餡(つぶした豆を砂糖で甘くしたもの)をかけた料理。
今川焼き…小麦粉の生地に砂糖味の豆を詰め、銅鍋で焼いたもの。この名前は、最初に作られた東京にある今川橋から取られた。庶民の子供に人気。外国人はこの菓子がちゃんと作られているかどうか注意が必要である。最近の首都圏の新聞によると、露天で食べた百人以上が中毒を起こしたそうだ。
煎餅…硬焼きビスケット(もしくは日本のクッキー)で、米か小麦粉で作られている。塩を加えると塩煎餅と呼ばれる。
今川焼きで食中毒なんて、びっくりです。火が通っているはずなのに。もしかしたら、作ってからよほど時間がたっていたのでしょうか。それとも汚い手で触ったのでしょうか。
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以前Twitterでも言及しましたが、ヒラヤマ探偵文庫は夏のコミケ二日目に初参加いたします。
それにあわせて、新刊を出します。
「英国犯罪実話集2」です。
以前ご好評をいただいた「英国犯罪実話集」の続編です。今回も、「ストランド・マガジン」に掲載された実話を中心に、独自編集いたしました。内容は以下のとおりです。
探偵の学校――ベルチョンの肖像写真の新分類法 アルダー・アンダーソン
変装の技術 ウィリー・クラークソン
郵便局の犯罪 オースチン・フィリップス
ウィーンのラッフルズ ジョセフ・ゴロム
なぜ人間は犯罪に惹かれるのか アンナ・キャサリン・グリーン
犯罪者の追跡 各国の探偵方法の比較 ジョセフ・ゴロム
テムズ川警察との一夜
密輸業者の手口
阿片窟の一夜 「死人の日記」の著者
私の知っていること ウィリアム・ル・キュー
最後の「私の知っていること」は、「完訳版 秘中の秘」を以前ヒラヤマ探偵文庫でもご紹介したル・キューの単行本から、犯罪に関連する部分を抜き出しました。なかでも興味深いのは、彼がロシアの怪僧ラスプーチンの文書を手に入れ、その中に切り裂きジャックの正体が書いてあると紹介しているところです。ル・キューはイギリス政府に協力してスパイを働いていたとも称していますが、はたしてどこまで信用していいものやら。なんだか落合信彦とか、元刑事と称している某作家とかを連想してしまうのですが。 -
「ミス・ピンカートン」(メアリー・ロバーツ・ラインハート)は、おかげさまで売り切れになっております。
案外この表紙が好評でして、これも続編の「ローランド屋敷の秘密」(同)も、
原作からとったイラストではなく、まったく関係のないイラストを拾ってきたということをTwitterでご紹介したら、あちらこちらから落胆の声が聞こえたのは、予想外でした。
実際、前者はネットから拾ってきたイラストでして、もとはこんなものでした。
その他にも看護婦さんのフリーのイラストを必死で探しまして、候補としては次のような者がありました。
最初の電話をかけているのは、いかにも緊迫感があってミステリらしいですが、赤十字がデザイン上ちょっと邪魔でした。二つ目の元気に歩いているのも魅力的ですが、何の屈託もなさすぎです。三番目のは、なんだか寂しそうだし元気がありません。
結局、現行のベッドに手をついてびっくり仰天しているイラストを選択したのでした。
ちなみにこの本の初版本のダストジャケットは、
です。なんだか暢気ですね。
ペーパーバック版のジャケットは
です。あまり可愛くないなあ。 -
「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」(パシフィカ)の「ライヴァル紳士録」の検証です。いよいよ最終回であります。
(21)ソープ・ヘイズル(ホワイトチャーチ)
「ソープ・ヘイズルの事件簿」が翻訳されています。
(22)”アベレージ”・ジョーンズ(アダムス)
「クイーンの定員」の48番ですね。
これも翻訳はないようです。
(23)カーナッキ(ホジスン)
「幽霊狩人カーナッキの事件簿」(創元推理文庫)など、この本は人気があっていろいろ翻訳があるようです。
(24)ヴェニバー・ジョー(プリチャード)
「ノヴェンバー・ジョーの事件簿」として、翻訳が出ています。
(25)”絶対確実”のゴダール(アンダース)
これも翻訳がないようです。
追記:失礼しました。「怪盗ゴダールの冒険」が出ていました。
(26)マックス・カラドス(ブラマ)
「マックス・カラドスの事件簿」が出ています。
(27)フラックスマン・ロウ(ヘロン)
「フラックスマン・ロウの心霊探究」が出ています。
(28)ファイロ・ガブ(バトラー)
「通信教育探偵ファイロ・ガッブ」を、私が翻訳しました。
以上28人のシャーロック・ホームズのライヴァルたちについてまとめました。
そのうち9人は私が翻訳し、1人は近刊予告に入っています。
ほぼ三分の一やっちゃったということです。
しかし単行本がないのが5人だけというのは、かなり紹介が進んでいるということではないでしょうか。 -
「シャーロック・ホームズのライヴァルたち」(パシフィカ)の「ライヴァル紳士録」がどれだけ読めるようになったかの検証、3回目です。
(14)ジョセフ・ルールタビーユ(ガストン・ルルー)
これはもう言うまでもないですね。「黄色い部屋の謎」をはじめとして、簡単に手に入ります。
(15)ジェームズ・R・ウォーリングフォード(チェスター)
この本については、すでにヒラヤマ探偵文庫の腰巻きにある「近刊予告」に出しましたように、すでに原稿が出来上がっています。あとはタイミングです。
どうぞお楽しみにしてください。
(16)ダゴベルト(グロルラー)
これは「探偵ダゴベルトの功績と冒険」 (創元推理文庫)として翻訳が出ました。
けっこう読めるようになっていますね。嬉しいことです。
(17)レディ・モリー(バロネス・オルツィ)
「レディ・モリーの事件簿」として、翻訳されています。著者は隅の老人と同じですね。
(18)ハイミルトン・クリーク(ハンシュー)
「四十面相クリークの事件簿」として、翻訳が出ています。ただこれは長編版で、もともとの短編版も読みたいものですね。
(19)アストロジョン・カーヴィ(バージェス)
「不思議の達人(上)」および「不思議の達人(下)」(ヒラヤマ探偵文庫)として、私が翻訳しました。この本に隠された暗号について研究した論文も、収録しています。
(20)クレイグ・ケネディ(リーヴ)
第一短編集は、なんと三種類も出ています!
「無音の弾丸」(ヒラヤマ探偵文庫 2015)
「無音の弾丸」(論創社 2017)
「クレイグ・ケネディ短編集 無音の弾丸」(EBパブリッシング 2020))
いやはや。