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"翻訳小説"カテゴリーの記事一覧

  • 文学フリマ東京の新刊のご案内
    五月十九日に開催される文学フリマ東京の新刊を、お知らせします。



    「テリーの日本案内」は、大正はじめの日本を旅行する外国人のためのガイドブックを翻訳しました。以前出版した「ベデカー・ロンドン案内」の日本版のようなものです。日本への渡航方法、日本食について、ホテルや旅館の泊まり方、骨董品の買い方などが書いてあります。ちょうど「鬼滅の刃」の舞台である、関東大震災以前の大正時代を学ぶのにちょうどいいのではないでしょうか。



    「趣味のモダン・アラカルト」(湯浅篤志)は大正、昭和から戦後へと続く、文人、世間の〈趣味〉への関わり方をとりあげたエッセイ集。大正文学研究者、湯浅篤志『夢見る趣味の大正時代』(論創社、2010)の続編になります。



    「海老足男との対決」(ウィリアムズ)は、アガサ・クリスティ「二人で探偵を」でパロディ化されている、クリスティお気に入りの探偵小説です。しかしこの作品は今まで邦訳されたことがありません。第一次世界大戦を舞台にした、スパイ小説です。最近「二人で探偵を」の新訳も出ましたので、これを機会にお読みになってみてはいかがでしょうか。
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  • 新刊「一攫千金のウォリングフォード」
    二月二十五日はコミケットに初参加してきましたが、爆死でした。
    いやはや、去年のコミケ(夏)よりもダメでした。
    あれはお隣に盛林堂さんがいらっしゃったおかげかな。
    まったくミステリ関係のブースがない中で、無謀と言えば無謀でした。
    もっとも悪いことばかりではなく、申し込み方法はコミケよりもわかりやすく、解説パンフレットも読みやすかったです。コミケは複雑怪奇です。まあ、それだけです。

    で、新刊の「一攫千金のウォリングフォード」ですが、売るほどあります(笑)。
    おかげさまで通販をお願いしている各書店さんも好調なようで、追加注文をいただいたところもありました。

    以下、通販で販売しているのは

    盛林堂

    ジグソーハウス

    CAVA BOOKS

    タカラ〜ムの本棚

    です。店頭販売をしてくださっているのは

    古書荒蝦夷(仙台)

    古書いろどり(神田神保町)

    henn books (名古屋)

    うみねこ堂書林 (神戸)

    です。
    どうぞよろしくお願いします。
  • コミティア147に参加します
    ヒラヤマ探偵文庫は、きたる2月25日(日曜日)に東京ビックサイトで開催されるコミティア147に参加します。
    場所は「す42a」です。

    昨年はコミケにも参加してみましたが、今度はコミティアに参加してみようと思います。

    春(5月)と秋(11月)の文学フリマ東京の間に、何か参加できるものはないかと思っていたのですが、まずは夏コミケを試してみました。しかしコミケは申し込み方法が複雑で大変だし、いろいろと独特のきまりも多く、その割にはあまり売れなかったので、うちとは合わないようでした。

    9月には文学フリマ大阪があり、大阪独特の明るい雰囲気もあり楽しいのですが、やはり旅費がかかります。でもまた行ってみたい気もあります。

    1月には文学フリマ京都がありますが、11月の東京からたった二ヶ月しか経っていませんし、大阪と比べると今ひとつおとなしい感じがしました。それに最近京都は宿泊費が高騰していますしww

    だから2月か3月の即売会があるとちょうどいいので、今回コミティアを試してみようと思ったわけです。

    新刊として、「一攫千金のウォリングフォード」(チェスター)を出します。



    また、大正時代の不思議小説パンフレットシリーズ1、2を販売します。
    これらは通販以外では、即売会の直販、あとは高知県立文学館のみでしか販売しませんので、どうぞよろしくお願いします。

     
  • ヒラヤマ探偵文庫新刊「一攫千金のウォリングフォード」のお知らせ
    ヒラヤマ探偵文庫をご愛顧いただきありがとうございます。

    2月25日のコミティア147(東京ビッグサイト)にヒラヤマ探偵文庫は出店し、その際に新刊

    「一攫千金のウォリングフォード」ジョージ・ランドルフ・チェスター、平山雄一訳

    を、新発売いたします。
    この本は「クイーンの定員」39番である、痛快な詐欺師小説です。
    もちろんいつもお取り扱いいただいている書店さんでも通販、店頭販売をいたしますので、おたのしみにしてください。これから順次各書店さんで詳しい情報が公開されると思いますので、ご注目のほどよろしくお願いします。

  • 「アナーキストの車輪」第三章 ジェハン・カヴァナーとの出会い
     汽車はいささか遅延して、キングス・クロス駅に到着したのはようやく六時過ぎだった。田舎の住人にはよくあることだが、ロンドンのターミナル駅に到着するとなぜか当惑をしてしまう。そういった感覚から僕はいつまで経っても抜けきれなかった。この晩は、さらに一種の憂鬱ささえ伴っていた。僕は孤立無援だった。将来の見通しは、立っているのか立っていないのかよくわからなかった。正直言って、僕を雇ってくれると言う人間の有り余るほどの親切心には、汽車に乗ってもまだ困惑していた。なぜここまでしてくれるのだろうか? なぜこんな奇妙な扱いをするのだろう?
     辻馬車に乗ってクラリッジ・ホテルに向かう間も、その疑問は頭から離れなかった。しかし正直言って、わくわくしていたことも確かだった。なにしろそのおかげで将来が明るくなったのだから。結局、ジェハン・カヴァナー氏がこんなことをするに当然の理由があったのかもしれないではないか。不満を抱くどころか、僕ほどついている人間はいないのかも知れない。こんな雇い主に目を留めてもらったのは、幸運なことだったのかもしれなかった。そう考えながら、僕はクラリッジ・ホテルの入り口で辻馬車から降り、カヴァナー氏はいらっしゃるかどうか尋ねた。彼は自分の部屋にいると聞いて、なおさら自分はついていると思った。彼と面と向かって話をすれば、真実が明らかになるに違いない。どちらも包み隠すことなどないのだから――という予想は、馬鹿げていた。
     さてホテル従業員は僕の身柄を召使いに渡した。このカナリア色のチョッキに真っ赤なフラシ天の半ズボンをはいた召使いは、重々しい様子で二階へと案内をした。そこは豪華な家具がならぶ前室だった。召使いは名刺を要求し、ここで待つよう言った。この部屋は狭く、続き部屋のうちの一つだった。もっと大きな部屋と隔てているドアは、僕が入ってきたときは少し開いたままで、活発な話し声が漏れ聞こえていた。そこに召使いが入っていったので、話は中断された。短い言葉が交わされた後、入り口にいきなり男が姿を現して、いささか警戒した面持ちでじろりと私を観察した。こちらが見返す暇もなかった。その体格も不快な印象を与える顔つきも、僕にはあまりいい印象を与えなかった。以前言ったように、かなりいろいろなところへ旅をしたことがあるが、この男はきっとアルジェリア人に違いないと思った。彼がいささか訛りのあるフランス語で話しかけてきたときに、その思いは強くなった。やはり彼はカヴァナー氏に仕えるアルジェリア人で、服装からしてどうやら運転手らしい。それでも彼は醜い奴だという印象は、簡単にはぬぐえなかった。
    「カヴァナー氏に面会の約束はあるのですか?」彼は質問した。
     ないと僕は答えた。
    「あなたの名刺をムッシュ・エドワードに渡しますが」彼は続けた「主人に会えるかどうかわかりません」
     いささか失望をした。そしてがっかりしたまま待っていた。十五分ほど経過しても、誰も姿を現さなかった。しかしようやくロンドン中でも群を抜いて穏やかそうな人物が現れた。かなり背が低く、薄い黒髪にきちんとした黒服姿で、どんな動きをしても音一つたてなかった。口調はなめらかで、少しでも大きな声で話しかけたら消えてしまいかねないほどだった。
    「あなたはインガソルさんですね?」彼はほとんどささやき声同然の口調で言った。
     僕はそうだと答えた。
    「カヴァナー氏はあなたが今夜来るとは思っていませんでしたが、お会いになります。どうぞこちらの部屋においでください」
     彼は隣の部屋に案内をした。話し声が聞こえていた部屋だ。そこは居心地よさそうな居間だった。見るからにホテルの居間そのものという感じだった。この部屋にはだれもおらず、どうやらアルジェリア人はどこかに行ってしまったらしい。僕は柔和な男の指示通り、椅子に座った。
    「新聞を読みますか?」彼は訊いた。
     僕は彼からウェストミンスター紙を受け取り、やむなく開いた。こんな場合に落ち着いて読んでいられるとは思えなかったけれども。
    「カヴァナー氏に報告してきます」彼は続けた。「現在手が離せませんが、あなたがいらっしゃったと報告をしてきます」
     僕が礼を言うと、彼は出て行った。前室と同様にここでも、隣の部屋から会話が漏れ聞こえてきていた。僕はおそらく将来の雇い主が忙しいときに押しかけてきてしまったのだろう。だから面談は延期した方がいいのではないかと感じた。ところがそんなことをするまもなく、新聞をたたんでいたところにカヴァナー氏本人が部屋に入ってきた。即座に僕は立ち上がり、われわれの未来を一手に握っている男の顔をじっと見つめた。
     ジェハン・カヴァナーについてご説明申し上げようか、それとも新聞記事で十分ご存じのことだろうか? イギリスでもアメリカでも、これほど人目を引く人物はいないだろう。非常に背が高く、優れた体格をして、人々を引きつける偉人ならではの魅力を発散していた。彼は世界的に有名なカナダ人である。しかしその父親がアイルランドからアメリカに渡ったのは二十代になってからだということは、あまり知られていない。母親は純粋のパリっ子だったというのは、前から知っていた。どうしてジェハンと呼ばれるようになったのかは、教えてくれなかった。
     彼はどこから見てもケルト人そのものだった。激しい性格で、一目で相手の好き嫌いを決めてしまい、いつも文句が絶えない一方で気のいい性格で、芸術的本能にたけていた。それに加えて、財政の込み入った問題や各国間の財政の権謀術数について、彼ほど詳しい人間はいなかった。カナダの主要鉄道会社は、そのほとんどが彼のおかげで繁栄をしていたといっても過言ではない。父親が手をつけたバクー油田も大発展させていた。またカナダの新聞六社とアメリカの三社も所有していた。彼の蒸気機関つきヨットは、豪華そのものだった。絵画コレクションはどんな国と比べても決して引けを取らない。彼は独身で、ヨーロッパには邸宅を所有していないはずだった。そしてそれまで噂でしか聞いたことのない人物と、クラリッジ・ホテルで六月の晩に初めて出会ったのである。
     六フィート三インチ半の背の高さに、日によく焼けているといってもいいほど浅黒い卵形の顔をしていた。並々ならぬ立派な体格をしている。瞳は深い青色で、髪の毛は真っ黒でカールしていた。鼻は少々高く、唇は分厚く、口は大きかった。両手は女性のように小さかった。灰色のフロックコートに、あわせた灰色のネクタイを締めている。とても小さなダイアモンドのピンをネクタイにさしていて、無垢の金の指輪を左手の中指にはめていた。カールした黒髪を額からなでつけて、首のカラーのところまで伸ばしていた。髭はきれいに剃っている。きびきびとして目配りをし、落ち着きがない。声は太くて低く、音楽的だ。これが、クラリッジ・ホテルで僕の将来を聞かされたときの、ジェハン・カヴァナーの姿はこの通りだった。しかし僕が彼と知り合って仕えるようになってからの驚くべき数ヶ月間に味わった、人を引きつける驚くべき魅力は、実際に会わなくては理解できないだろう。
    「インガソル君だね?」彼は部屋に入るなり行った。
     僕はそうだと答え、ケンブリッジから手紙の返事をしにやってきたと言った。正直、彼は僕の言葉など聞いていなかった。路上の新聞売り子の叫び声に彼は気を取られて、窓の方を向いていた。そしてテーブルの上にあった小さなベルを鳴らし、ムッシュ・エドワードという柔和な召使いを呼びつけた。
    「どうして待たせる?」彼はほとんど怒っていると言っていいほどのイライラした様子で問いただした。「あれが聞こえないのか?」
    「申し訳ございません、旦那様。新聞は今まいります」
     ムッシュ・エドワードは引き下がり、僕たち二人だけになった。まだ号外だとわめいている新聞売り子の声がする。半ペンスの夕刊だ。どうしてカヴァナー氏がそんなものを読みたがっているのか、興味がわいた。彼は新聞を待ちかねている間、そんなことを考えている僕をほったらかしにしていた。彼は一言も僕に話しかけようとしなかったどころか、こちらに視線を向けさえしなかった。窓際に立って売り子の声に集中をしていたら、いきなり両手で両目を押さえ、そのまま召使いが新聞を持ってくるまで、奇妙な仕草のままだった。
    「誰の過ちでもございません、旦那様。売り子の少年が持ってくるのを忘れただけです」
    「出発するときには、そいつには何も与えるな。それからエドワード、インガソル君は私と一緒にケンブリッジに行く。到着してから夕食をとる。電報でそう連絡しておきなさい」
     彼は話しながら新聞を広げ、紙面に広がる見出しをじっと見つめた。何を読んでいたのか知らないが、大いに驚いた様子だ。その目が緊張し、嘗めるようにして記事を読んでいた。巨大で優しい犬のように巨大な頭を振っているさまは、大きな不安にさいなまれているらしい。彼にとってとても重要な内容の記事らしいと、僕は推察した。しかも最悪の予想が当たってしまったらしい。彼は新聞を読み終わると、イライラした様子でくしゃくしゃに丸めた。紙くずと化して足下に捨てられると――ようやく彼は僕の存在を思い出した。
    「新聞を読んだり信じたりする人間は、愚かだ」彼はようやく大声で言った。「来い、インガソル君。食事は夜遅くになるから、今すぐ出発だ」
     何と言ったらいいだろう? 自分の荷物はキングス・クロス駅に預けたままだ。二人の間で何の取り決めもされていない。どんな提案を承諾するのか、それとも拒否するのかさえもさっぱりわからないではないか? 実際、僕が何も言えないでいると、彼が部屋を出ようとして立ち止まり、先ほど投げ捨てた新聞を拾い上げた。僕は彼に続いて玄関先に出て、一緒に自動車に乗り込んだ。