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松野一夫と「疑惑」

令和62024)年が始まりました。

今年もよろしくお願いいたします。

今回も、あいもかわらず、松野一夫の挿絵について触れていきます。

江戸川乱歩の「疑惑」は、『旬刊写真報知』大正141925)年915日号(326号)、925日号(327号)、1015日号(329号)の三号にわたって掲載されました(105日号の328号は休載)。この作品は松野一夫が挿絵を担当していました。ただ、1015日号には松野一夫の挿絵はなく、どこかの雑誌から持ってきたような女性の絵が一枚あっただけです。作品の内容とは、まったく関係のないものでした。つまり、915日号と925日号の二号に合計四枚の松野一夫の挿絵があったのです。

それでは、まず、915日号に載った挿絵をご覧下さい。


挿絵人物の右側、帽子を脱いでいる人物が「おれ(S)」で、父親が殺されたことを、左側の学校の友人に話している場面になります。友人の左手にはタバコがあるようにも見えます。「疑惑」は「おれ」と友人の会話で成り立っている小説です。青空文庫にも収められているので、読んでもらえると挿絵の必要性がよくわかります。実際、背景などの客観描写がありません。しかし挿絵があると、なんとなくですが、会話の風景状況が浮かんできます。松野一夫の絵がそれをうまく現しています。

 

次にお目にかけるのは、925日号の「(三)十日目」の載った挿絵です。本文では以下のように展開しています。「おれ」が母親を怪しいのではないかと疑い始めたとき、暗くなった夕方、二階から下りてきた。「おれ」は縁側に立っていた母親に気づきます。母親は庭にある「何か」をソッとうかがっているようでした。母親は「おれ」に気づくと「ハッとした様に、去り気なく部屋の中へはいってしま」いました。

挿絵は、「おれ」の説明とは少し異なる描写になっていますが、庭の様子や小さなほこらが見て取れます。「その方角には、若い杉の樹立が茂っていて、葉と葉の間から、稲荷を祭った小さなほこらがすいて見える」と、友人には説明していました。

作品を読んだ人はおわかりのように、それらはいずれも大切なところですね。このように松野一夫の挿絵は、物語のポイントを示すことによって、読者に興味の方向を導くようになっていたのです。

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